コロナで営業自粛や縮小を余儀なくされた飲食店。アメ横の路上の立ち呑み居酒屋「魚草」も2020年4月から2ヶ月ほど営業を中止し、その後は座席を減らして客同士の距離を取る新たな形態で営業を再開した。「集まるほどに面白く」を合言葉に一期一会の生まれる店作りを目指してきたが、コロナ禍で営業制限を受けて店を開く意義を感じなくなってしまった店主が決断したのが「路上回帰」。コロナ禍だからこそ、店を出て路上で、街の風景を肴に酒を飲む体験が提供できないかと考えて、アーティスト中澤大輔とともに路上立呑みのための「ワゴン」を開発。夜6時半、客たちは店で酒と魚をテイクアウトして2台のワゴンに積み込み街へと繰り出す。公共の路上や公園で、時に私有地の地権者たちと折衝しながら、路上の様々な場所にワゴンを停車して乾杯を繰り返す。短い乾杯のひとときを終えたらゴミ1つ残さずその場を立ち去る。街の様々な場所に出没して街の風景を味わう。これがみちくさワゴンのニューノーマルに向けた新たな挑戦となった。
道路や公園は公共空間であり、市民が共同で使う場所である。共有地だからこそ自由さと不自由さが存在し、市民はそこに立ち止まる自由があるが、他人から干渉を受け立ち去らなければいけない不自由さもある。コロナ禍で閉ざされた屋外で酒を酌み交わすことにリスクがあるのなら、公共空間の新しい使い方を変異・増殖させていくこともまた、新型ウイルスに対する戦い方ではないだろうか。コロナ禍での新しい挑戦を経て、街で集う意義を見つめ直す新たなプロジェクトが始まっている。
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