演劇と国際協力
下田寛典 2021.09.18
ウェブサイトのリニューアルのプロセスでは、メンバーが互いに何を考え、何を実践してきたのかを確認し合った。その中で、国際協力に身を置いてきた自分は、国際協力と演劇との関わりを考えることが多かった。一連のプロセスで考えてきたことの一端をここにも掲載したいと思う。
冒頭の写真はカンボジアでの菜園研修の様子だ。座学としてやり方を伝えたあと、実際に住民の方にやってみてもらう。乾季で乾燥した土はとても硬いので、それを砕き、堆肥と混ぜ合わせて畝をつくる。そこに葉物のタネを撒いて、最後に水やりをして、その上に稲わらを強いて蒸発を防ぐのが研修の一連の流れだ。やる人と眺める人がいるが、実際には、順番にみんなでやってみる、ということをしている。
国際協力の仕事では、相手と一緒になにか「やってみる」ことを繰り返してきた。この研修もそうだし、タイで家を建てることも、災害支援でトイレをつくることも、誰かに任せてしまわずに、自分たちでやってみた。「やってみる」ことを通じて、関係性が生まれたり、特別な時間をつくり出せたりした。住民たちとの協働のことを、「演劇」とは呼ばなかったけれど、農村で暮らす住民の日常に日本人が混じって何かをやるという時間は、そこそこ非日常なことであったかなと思う。
私が演劇をやっていることは職場でも言ってきたし、同僚がお客さんとして来てくれたこともある。けれど、演劇と言ったときにイメージされる演劇は、とても狭い。演劇をしていない人にとって、演劇は、観るものという受け取り方が圧倒的だ。
カンボジアの研修の成果は、数値的な効果測定もするが、数字よりも確からしいのは、あの時みんなで集まって土づくりをしてみた、という共同の体験。それは淡く消えていってしまう一瞬のことだけれど、参加した住民が何かを持ち帰って、それがいつか別の形で何かを始めることにつながっていたりする。それは、演劇を体験して得られる経験に近いように思う。
国際協力の現場における私の仕事は、「やってみる」体験の仕立てだと思ってこれまでやってきた。それは演劇の実践にとても近い(と思っている)。やってみたあとにそこに集った人たちの間で何か変わるものがあるのだとしたら、それは演劇の効用と言えるかもしれない。そうやって国際協力の現場を、私なりに、演劇の舞台にかえている。
(写真提供:(特活)日本国際ボランティアセンター)
|追伸|約40年間にわたって活動してきたカンボジアでの活動の変遷をまとめた映像を公開しています。(2021/9/18)