911によせて
下田寛典 2021.09.11
911から20年。あの日、何をしていたか正確に思い出せない。大学2年を終えたところで、1年休学してタイの農村にボランティアで行っている時のことだ。当時住んでいた場所は、テレビもラジオの電波も届かないようなところで外界から隔絶されていた。だから、アメリカでおきた事件のことを知ったのは町に出たときのことで、随分あとになってからだ。9月のタイは雨季で降りやまない雨の中、300本を超えるバナナ畑を歩きながら、ずっとバナナの葉を剪定していたのだと思うが、確かなことではない。
20年が経った今日は、住んでいる町の神社の例大祭だった。昨年は感染症の影響で中止になったが、今年はほんの少し出店もでて、少ない出店を求めて地元の小学生でごった返していた。息を潜めて過ごしてきた町の人たちの気持ちが弾けるような光景だった。
20年前にコロナはどうしていたんだろうか。森のなかで、野生動物と共にコロナも生きていたんだろうか。もしかすると、隔絶されたタイの山奥で私のすぐ近くにいたのかもしれない。それから20年、森が切り拓かれて行き場をなくしたコロナが町にやってきた。そして、今日、神社の境内でコロナと私は再会し、共に宴に酔いしれている。