砂場、それは子どもたちの社交場ではなかったのか
石神夏希 2022.11.04
砂場デビューをした。
保育園では園庭全体が砂場のようになっていて、子どもは以前からお砂遊びは大好きだったが、公園の砂場に親子で行ったことがなかった。
入ってみて、驚いた。どの親子もみんな、ものすごく充実したお砂場グッズ持参でやってきているのだ。しかも各親子は一組ずつ小さな円で遊びが完結していて、他の親子と会話もほとんどしないし、一緒に遊ぶこともない。子どもの気が済んだら出ていき、また似たようなおもちゃセットを抱えた別の親子が入ってきて、自分たち家族だけで遊び始める。入れ代わり立ち代わり、たくさんの親子が遊んでいる砂場はいっけん和やかな社交場に見えるのだけど、まったく他の家庭と交わらないしできるだけ目も合わせない、なんだったら視線を向けるのが憚られるような、よそよそしい空間だった。コロナの影響もあって、以前とは変わってしまったのかもしれない。言い方は悪いけど、なんか排泄みたいなというか、子どもの砂場欲を処理するための個室がたくさん並んでいるように感じてしまった。
私たちは手ぶらだった。どの子もマイお砂場グッズに囲まれているなかで、完全に浮いていた。もちろん誰も声をかけてこないし、こちらからもかけられない。孤独だった。こんなとき、遊び上手で社交上手の夫がいてくれたらと思ったが、あいにく夫は休日出勤で不在だった。私は子どもをがっかりさせてはいけないと、冷や汗をかきながら砂で山をつくり、棒を立て、枯れ葉を飾った。子どもも山づくりに付き合ってくれたけれど、他の子どもたちのショベルカーやダンプカーといったミニ重機や色とりどりのシャベルやバケツなど、魅力的なおもちゃが気になって、もじもじしていた。「他の子が使っている時は、勝手に取ってはいけない」ということはわかるし、人見知りなところがあるので、近づいていったり勝手に手を出したりはしない。話す言葉もまだ片言なので、母になんと言っていいかもわからない。でも、あきらかに他の子のおもちゃで遊びたくて仕方ないようだった。
幸い、すぐ隣りにいた、すごく立派なショベルカーのおもちゃを持っていたお兄ちゃんのお父さんが「貸してあげなよ」と言ってくれて、その子が砂場に飽きてどこかへ遊びに行っているあいだ、自由に使わせてくれた(ただそのお父さんは、子どもを通じてコミュニケーションをするだけで、私と目を合わせることはほぼなかった。なんなんだ、この砂場ルール)。
子どもは大好きなショベルカーで砂を掘ってダンプカーの荷台に運び、それをまたジャーとこぼす、という遊びに三十分以上、熱中していた。最後にお兄ちゃんが来て返すときは泣いてしまったけど、公園を出る時は満ち足りた顔をしていて、ホッとした。私はそのお父さんに心のなかで手を合わせ、自分たちがお砂場グッズを手に入れたあかつきには、他の子どもたちに快く貸してあげられるおもちゃ長者になろう、と誓った。そうして砂場を子どもたちの社交場として取り戻すのだ。